東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)99号 判決
一 請求原因一ないし三の各事実、すなわち、本願発明について優先権を主張してされた特許出願から本件審決に至るまでの特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点については、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が請求原因四において主張する本件審決の取消事由の当否につき判断する。
(一) 本願発明と第一引用例との相違点について
1 当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明においては、立筒の下部から立筒内に接線方向に加熱ガスを供給して、立筒内を下方から上方に向う加熱ガスの旋回流を生ぜしめることが明らかである。
一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、「導管7を介して、きわめて高い速度で少量のガスが接線方向に吹込まれるので、上方に向つて上昇するガス柱が回転させられる。」、「旋転運動を生じさせるために役立つガス流は、送風機13によつて発生させられることができる。」(別紙図面(二)参照)と記載されていることが認められ、第一引用例において、縦室6内を上昇する加熱ガスは、導管7を介して接線方向に吹込まれる高速度のガスによつて回転させられ、上昇力と回転力との合成により、全体として旋回流になるものとみることができる。
したがつて、両者の加熱ガスの流型が原告の主張するように相違するとはいえない。
なお、原告は、第一引用例において接線方向に吹込まれるガスが加熱ガスではないと主張する。なるほど、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、接線方向に吹込まれるガス流が送風機13によつて発生させられるが、この送風機13は排ガス送風機14から導管15を介してガスを受取ることができる旨の記載があり、その図面(別紙図面(二))にも右記載内容に合致する構成が示されているから、この構成においては、接線方向に吹込むガスは縦室6の下方から供給される加熱ガスより温度が低いものであることが認められる。しかしながら、同号証によれば、第一引用例には、「なお、別の配置も考えられる。」、「例えば、主流ガスと部分流ガスとが同じ温度を有することを重視する場合は、部分流は再導入箇所の近くで取出されることができる。」と記載されていることが認められ、主流ガス(加熱ガス)と部分流ガス(接線方向に吹込まれるガス)とを同じ温度にすることも明らかに開示されているから、原告の右主張は理由がない。
2 前記本願発明の要旨によれば、本願発明は、立筒の上部から粉末材料を下方に連続的に供給し、その一部が加熱ガスの旋回流とともに立筒の頂部に運び出されると、これをガスから分離し、分離された材料は再び立筒の上部に戻して、前記連続的に供給されている材料とともに加熱ガス中に供給することを要旨としていることが明らかである。そして、成立に争いのない甲第二号証の一によれば、本願発明の明細書及び図面(別紙図面(一))には、粉末材料が立筒2の頂部にある供給部材8及び導管9を通じて立筒2内の上部中央に連続的に流入せしめられ、その一部が加熱ガスの旋回流に乗つて上昇し立筒2の頂部から排出されると、導管11を経てサイクロン型分離器12に入り、ここでガスから分離され、このように分離された材料は閉塞部材13、導管14を介して立筒2内の上部内周壁付近から再び加熱ガス中に戻されるという構成の実施例が記載されていることが認められる。
一方、前掲甲第三号証によれば、第一引用例に記載されている発明の実施例として、粉末状物質が縦室6の上部中央に連続的に流入せしめられ、その一部又は全部がガス流によつて縦室6の頂部から排出されると、サイクロン3においてガスと分離され、シユート4を経て縦室6内の遠心皿5の上に戻されてベール状に散布されるが、遠心皿5は縦室6内の中央より下方に位置している構成が示されていることが認められる。しかし、同号証によれば、第一引用例記載の発明の特許請求の範囲には、分離材料を戻す位置及び方法について何ら限定されておらず、右実施例の説明においても、「サイクロン3のシユート4は、例えば、ここでは第二の遠心皿5上へ開口し、この遠心皿5によつて粉末状物質はベール状に解離されてあらためてガス流中に入れられる。」とされているのであつて、右のような分離材料を戻す位置及び方法は一つの実施態様として示されているにすぎないことが認められ、第一引用例の発明において、分離材料を縦室6内の下部に戻さなければならない技術的な必然性は認め難く、本願発明におけると同様に、分離材料を縦室6の上部に戻す構成にすることは当業者にとつてサイクロンの位置決めに応じきわめて容易に実施しうることであるというべきである。
したがつて、本願発明が分離材料を立筒上部に戻しているのに対し、第一引用例に示されている一実施例が分離材料を縦室の下部に戻し遠心皿を使用して散布するという点の相違は、単なる設計上の微差であつて、本願発明と第一引用例との間に実質的な差異があるとはいえない。
3 前記1、2において判断したとおり、本願発明と第一引用例とは、加熱ガスの流型、分離材料を戻す位置及び方法に実質的な相違があるとは認められないから、両者における粉末材料と加熱ガスとの関係運動も相違するものとはいえない。
もつとも、前掲甲第二号証の一によれば、本願発明において、分離された粉末材料は、「引続き導管9から供給されている粉末と合体するため、立筒2の上方部におけるガスの単位体積中の粉末密度が増加し、カサ比重が増大するため、粉末は上昇旋回ガス流に抗して順次下方に沈降して行く。この場合、ガスの旋回速度(円周方向の速度)は大であるが、上昇速度(立筒2の軸線方向の速度)は比較的小であり、粉末の沈降を妨げるものではない。すなわち、粉末材料と上昇旋回ガス流とは向流的に熱交換される。」と記載されていることが認められるのに対し、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「一定の粒度、すなわち、例えばポートランドセメントを作るための物質が有するような細かさを有する粉末状の物質においては、ガスと粉末の向流運動は、粉末を壁面上に生じる境界層内でガスと逆方向に導く場合にしか実現することができない。ところで、熱伝達のためにガスと粉末物質との渦動の高い効果をも利用するために、本発明の方法では、同一の中空体内で両方の運動を行なわせる。境界層内におけるガス流と反対方向の粉末状物質の運動と、ガスと粉末物質との渦動とが、必要な程度だけ何回も順次に交番するようにする。このようにして一種の巡回方法が生じる。粉末状物質は、境界層内でガスと逆方向に進み、次いで、再び壁から離れてガスと混合し、その際に粉末状物質はいわば半歩だけとどまり、次いで再び境界層内で一歩だけガスと反対方向に運動する。」と記載されていることが認められるから、一見両者における粉末材料と加熱ガス流との関係運動は異なつているかのようにもみえる。しかしながら、本願発明においても、立筒の上部に連続的に供給される粉末材料の全部が直ちに上昇旋回加熱ガス流に対向して沈降するわけではなく、ガス流に乗つて立筒の頂部より排出されサイクロン型分離器によつて分離されて再び立筒の上部に戻されるものもあることは、前掲甲第二号証の一から明らかであり、また、ガス流に入つた粉末材料は、旋回流の遠心力により立筒内周壁に近づき、第一引用例がいうところの境界層内で下方へ降下し、あるいは上昇旋回流中に再び入る等複雑な動き方をすることは、技術常識上当然に予測しうるものというべきである。これに対し、前掲甲第三号証によれば、公知の方法が、「熱交換率についてきわめて重要な前提条件である真の向流を生じさせるために、細かい粉末状の物質をガスの流れと反対方向に動かすことに、困難を有して」いたが、第一引用例の発明は、「向流原理を実現し」、その要旨とするところは、「例えば、円筒形の垂直又は傾斜状態の中空室内で、ガス状の物質をきわめてゆつくりと下方から上方へ導くとともに、逆の側から、すなわち上方から粉末材料を導入することにある。」とされていることが認められ、第一引用例記載の発明が向流的な熱交換を効率的に行なうことを目的とするものであつて、粉末材料の種類や単位時間当りの供給量、加熱ガス流の上昇及び旋回の速度、分離された材料を戻す位置等につき特に限定されておらず、適宜選択しうることも明らかであるから、第一引用例においても、粉末材料を向流的に沈降させうるものといつて何ら差支えがない。そして両者の記述中には、粉末材料と加熱ガスとの関係運動が異なるかのような前記部分があるとしても、それは、粉末材料が向流的に沈降する場合の動き方につき、それぞれ強調する点が異なつているにすぎず、右のような粉末材料の種類、供給量、加熱ガスの上昇旋回速度等の適宜選択しうる事項によつて、細部における関係運動が種々の態様をとりうることはむしろ当然であり、基本的には、粉末材料が全体として上昇旋回加熱ガス流と向流的に沈降する点において、両者は同一である。したがつて、両者の間においては、粉末材料とガス流との関係運動が相違するとはいえない。
4 前掲甲第二号証の一及び甲第三号証によれば、本願発明の実施例として示されている装置は、別紙図面(一)のとおりであつて、立筒2内の上部には、導管9の下部にそらせ板部材10及びこれを支持する軸並びに導管14の下部に突出板が存在しているのに対し、引用例には、別紙図面(二)の装置が示され(なお、本願審決が、そのうち円筒形熱交換装置上方部分(縦室)6を中心とする構成部分及びその機能と本願発明とを対比していることは明らかである。)、縦室6内には、遠心皿2、5及びこれらを回転させる駆動軸並びにシユート4の先端部が存在していることが認められる。そして、両者の構成を対比するに、第一引用例が少量の高速ガスを接線方向に吹込むための送風機13及び導管7を必要とするのに対し、本願発明ではこれが不必要であり、加熱ガスを接線方向に吹込むための特別な装置を備えたロータリーキルン1及び導管7を必要とするという点を除いて、両者の基本的構造に相違はない。また、本願発明におけるそらせ板部材10や第一引用例における遠心皿2、5等の大きさは、それが限定されているわけではなく、適宜選択しうる事項にすぎないことが明らかであつて、第一引用例が本願発明より、立筒(縦室)内の妨害物が多いということはできないから、この点に関する原告の主張も理由がない。
(二) 第二引用例について
成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、第九五頁以下に噴霧乾燥器内の空気流に関する記述があり、第九七頁の第一三七図に種々の向流噴霧乾燥の熱風吹込み方式が図示されていることが認められるところ、一般に、噴霧乾燥とは液状又はスラリー状の材料を熱風中に噴霧し、熱風で搬送しながら急速に乾燥して粉末状の製品を得る乾燥法であるとされているから、第二引用例における被加熱材料は、液状又はスラリー状の材料であり、それが微細な粒子として分散された状態となつても、粉状物質といえないことは明らかである。したがつて、本件審決が第二引用例における被加熱材料を粉状物質であるとしたのは誤りというべきである。
しかしながら、前掲甲第四号証によれば、第二引用例において、第九七頁の第一三七図(a)(別紙図面(三))に示されている装置は、熱風が塔内下部において接線方向に吹込まれ、旋回流となつて上昇し、塔の上部から噴霧された材料をこの熱風と向流接触させて乾燥するものであることが認められるから、第二引用例と本願発明及び第一引用例とは、いずれも微細な粒子を、旋回しながら上昇する加熱ガスと向流接触させて加熱するという点において、技術的に共通しており、被加熱材料と加熱ガスとの関係運動にも何ら差異がない。
したがつて、第二引用例に示されている加熱ガスの吹込み方は、第一引用例における加熱ガスの吹込み方に容易に転用しうるものというべきであり、これが困難であるとする原告の主張は当を得ない。
(三) 本願発明の作用効果について
1 本願発明と第一引用例においては、前記のとおり、いずれも粉末材料と加熱ガスとが向流接触し、その関係運動が実質的に相違するものではないから、本願発明の熱交換率が、第一引用例のそれと比較して、著しく高いとはいえない。
2 本願発明と第一引用例の各構成を対比すると、前記のとおり、第一引用例が少量の高速ガスを接線方向に吹込むための装置を必要とするのに対し、本願発明ではこれが不必要であるという相違点はあるが、他面、本願発明が加熱ガス全体を接線方向へ吹込むための装置を必要とするのに対し、第一引用例においてはこれが不必要であり、両者の間には、他に構成上格別の差異があるとはいえないから、本願発明の方が、第一引用例に比べて、特に、装置が簡単であるとはしえず、したがつて、製作、保守が容易で、価格が安いということもできない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 実質的に円形断面を有する縦に細長い予熱直立立筒の上部、すなわち供給部から粉末材料を下方に連続的に供給し、該立筒の下部からは立筒内に接線方向に加熱ガスを供給して該立筒内を下方から上方に向かう加熱ガスの旋回流を生ぜしめ、該立筒の頂部から加熱ガスを取り出し、このように取り出されたガスと共に運び出された材料を分離し、このように分離された材料を該立筒の上部に戻して、前記の連続的に供給されている材料と共に該上昇旋回加熱ガス流と向流関係に下方に移動させて、向流的に熱交換させて予熱し、予熱された材料を該立筒の底部から取り出すことを特徴とする粉末材料の予熱方法
2 縦に細長い実質的に円形断面を有する予熱直立立筒と、該立筒の上部、すなわち供給部に粉末材料を連続的に供給する装置と、該立筒の下部から該立筒内に接線方向に加熱ガスを供給して該立筒内を下方から上方に向かう加熱ガスの旋回流を生ぜしめる装置と、該立筒の頂部から加熱ガスを取り出しこのように取り出されたガスと共に運び出された材料を分離し該立筒の上部に戻すようにしたサイクロン装置と、予熱された材料を該立筒の底部から取り出す装置とを設け、前記の連続的に供給された材料がサイクロン装置より戻された材料と共に該上昇旋回加熱ガス流と向流関係に下方に移動せしめられ向流的に熱交換予熱されて立筒の底部から取り出されるようになしたことを特徴とする粉末材料の予熱装置
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面
(一) 本願発明
<省略>
(二) 第一引用例
<省略>
(三) 第二引用例
<省略>